安藤百福翁が逝った

 96歳だったそうだ。去年テレビで見かけた時は元気そうだったが、天命には勝てなかったか。スペースシャトル宇宙食用に開発されたインスタントラーメンをほおばる姿は衰えぬ意欲を感じさせるものであった。
 各種の書籍・テレビ番組によれば、翁はインスタントラーメンを次のように捕らえていたようだ。曰く、インスタントラーメンは「時間を売る商品」というであると。要するに料理にかかる手間を省く画期的な商品であると言うのである。そこから時給換算して何円の貢献を日本にしているのだと真顔で主張していた。飛びぬけた発想法である。
 翁は戦前から成功した事業家であったが、ある信用組合の会長に就任したために全財産を失った。普通の人なら失意のまま人生を終えるところであるが、そこから立ち上がり、48歳の時にチキンラーメンを開発し、日清食品を立ち上げたというすさまじい馬力の持ち主である。しかしやがて類似の商品が跋扈するようになり価格競争に突入。倒産の危機に直面すると若い技術者たちとともにカップヌードルを開発し、危機を乗り切った。
 阪神大震災の折には本人も被災したにもかかわらずインスタントラーメンを支給する日清食品の車を何台も被災地に送り、現地の人に配布した。金儲けだけではなく公共性にも配慮していたことがうかがえる。
 いまやインスタントラーメンは日本のみならず世界中に普及している。私は仕事柄世界中の人と親交があるが、カップヌードルを知らない外人には出会ったことはない。まさに世界規模の企業家であった。
 翁の残した功績を称えつつ、ご冥福をお祈りする。