レナードの朝(注:もろにネタバレなんで見てない人は注意)

 久々に映画を見た。深夜たまたまやっていただけなのだが、面白すぎて4時前まで夢中で見てしまった。
物語では嗜眠性脳炎と呼ばれる病気がとりあげられている。原因不明の難病で、その病気にかかると何十年もの間「石化」しており眠ったような状態になってしまう。そんな病気にかかり回復不可能と思われていた数十人の患者達と病気の回復に尽力する医師と看護婦たちの物語だ。研究熱心な医師・オリヴァー・サックスは研究の結果、他の病気のために開発されたある新薬にたどり着く。周囲の反対する医者を説得し、最終的に患者達に薬を投下する。その結果、患者達は奇跡的に「石化」が解け起き出した。映画は患者たちの一人で11歳から30年間眠ったようになっていたレナードを中心に描かれる。
 最初は単なる奇跡の感動物語かと思っていたが、物語は徐々に悲劇になっていく。耐性によって薬が徐々に効かなくなっていくのだ。レナードは痙攣がとまらなくなり、時々「石化」に戻るようになる。徐々に症状が進行し普通の生活が困難になっていく。レナードはそんな自らに絶望し、恋人に別れを切り出す。レナードの彼女が席を立って去ろうとするレナードの手を優しく握り、ダンスを始めるシーンは泣ける。バスに乗って家に帰ろうとする彼女を窓から見送るレナードの後ろで流れる悲しいピアノ曲がさらにその涙を増幅させる。
 最後は患者たちはみんな「石化」状態に戻ってしまう。全ては元に戻ってしまったのだ。医師・オリヴァーの努力は無駄だったのだろうか。映画の答えは「そうではない」というものだった。
 実はある看護婦がオリヴァーに好意を寄せているシーンが作品中で描かれているのだが、研究に没頭するオリヴァーはその好意に気づかない。彼女にコーヒーを飲みに行こうと誘われても「研究があるから」と連れなく断ってしまう。レナードはつかの間の人生を謳歌したわけだが、レナードはオリヴァーに繰り返し「普通の人生の意味」を説く。そんな「人生の意味」にオリヴァー自身が徐々に気づいていく。作品の最後の最後でオリヴァーが看護婦に「一緒にコーヒーを飲みに行こうか?」と誘うことになる。
 レナードはつかの間の人生の間に一人の人間に「幸福」の意味を教えたのかも知れない。物語自身は悲しい物語だが、一筋の希望の光が最後に差した気がする。