ボウリング・フォー・コロンバインを見た

 すごく面白い。
 昔デンバーのコロンバイン高校で起こった高校生による銃の乱
射事件を追った記録映画なのだが、視点が面白い。
 あの事件があった当時はマリリン・マンソンのせいにする意見が
多かった。今から考えれば悪い冗談としか思えないのであるが、
こういう事件が起こると、魔女狩りをやるのはどこの国でも同じ
ようだ。(日本だって酒鬼薔薇聖斗の事件の時はある漫画を標的
にした。)
 題名に含まれているボウリングというのは犯人2人が事件の朝、
彼らがボーリング場で2ゲームやったことからきている。
 「なんで、みんなマリリン・マンソンとかゲームとかのせいにす
るくせに、直前にやってたボーリングの影響を考えないのだ」
という皮肉である。
 ムーアはアメリカでは多くの人が銃を持ってるのでそのせいで
はないかと追求するのであるが、実はお隣のカナダの方が銃の所
持率が多い。しかしながら銃で死ぬ人数はアメリカよりずっと少
ない。この事実に着目した彼はカナダに取材に行く。
 するとカナダ人だって人を殺すゲームに熱中してるし、暴力的
な映画も好きだという当たり前のことが分かる。
 しかしながら意外なことにカナダでは都市部も鍵をかけない人
が多いことが分かる。
 そこでムーアはどっかの教授を引っ張り出してきて、アメリ
人は恐怖をつねにあおられているからだ、と仮説を立てる。
 メディアとかに蔓延する暴力のニュースとかが人々を恐怖に駆り
立てているのではないかというのである。
 そこで彼はアメリカの歴史を考える。欧州から弾圧の恐怖から逃
れてきた人々が、今度は先住民族に恐怖を覚え、皆殺しにする。
さらに彼らを弾圧したイギリス人と戦争をして、恐怖から逃れよう
とする(もちろんその過程でイギリス人を殺す)さらに黒人奴隷を
アフリカから連れてきて強制労働させるが、やがて黒人の数が増え
すぎて、彼らが暴動を起こすのではないかと、また恐怖を感じる。
都市部では黒人がいっぱいいるからと郊外に逃げ出すが、今度は隣人
に恐怖しはじめる。
 なんか、アホみたい、と思うけど、ムーアはこれがアメリカの歴史
だ、という。そしてこの恐怖こそがアメリカ人に銃を撃たせているの
だというのである。
 また彼はカナダの福祉政策が弱者にも優しいことにふれ、アメリ
は弱いものを切り捨てる政策を取っている、これもまたアメリカ人を
貧困への転落の恐怖に駆り立てているのではないかというのである。
 他にもTV局へ突撃取材し、「もっと暴力的じゃないニュースを作
ろう」と彼は提案するのだが、視聴率を取れないことを理由に笑い
飛ばされてしまう。
 また、アメリカ人が海外で人を殺しまくってることにも触れ、(
ベトナム戦争とかイラク戦争とか枚挙に暇がない)これも銃乱射の一
因ではないかと彼は主張するのである。
 つまり政治家が海外で人を殺しまくる政策を取ってるのだから国民
がそれを見習うのは当然だと言うのである。
 彼の説が正しいかどうかは分からないが、彼の思考の過程が延々と
描かれているのが面白かった。
 結論が正しいかどうかは別にして彼の取材での真摯な態度には感心
してしまう。
 これは見て損のない映画である。