原子力小説第1話【不定期連載小説】

1号機が水素爆発したというニュースが流れた。

「ヤバイことになっちまった。
俺の約束された人生が・・・
ここまで成り上がって来たのに。畜生。」

思わず声に出してしまった。

ここはとある大学の原子力工学の第13研究室だ。
A助教授は将来を嘱望された原子力メーカーの設計部門出身だ。
出向していた先にたまたま来ていた大学の教授に認められ、助教授に採用されたのが4年前だった。

貧しい家庭出身だったAは上司には絶対服従、部下や学生には叱責、罵倒を繰り返し、奴隷のように扱うという男だった。
パワハラがうるさい昨今、そのせいで何度かまずい状況に陥ったが、教授陣の印象が良かったので、注意で済んで来た。
学会でも評判は良く、賞も取っている。
教授の椅子は間近だと本人も思っていた。

しかし、目の前のテレビには破壊された1号機の建屋が映っている。
このことが何を意味するのかはAは分かっていた。

やがて来ると予想される業界の壊滅的状況を前に、自分の描いていた順風満帆な人生が崩れ落ちていくようであった。